地熱発電とは?メリット・デメリット、日本の地熱発電について解説!
環境
自国のエネルギー資源(石炭・石油・天然ガス・風力・太陽熱など)が少ないと言われている日本。
しかし、世界有数の火山国である日本の地下には、世界第3位の資源量を誇る膨大な「地熱エネルギー」が眠っています。
この地熱エネルギーを利用した電力が「地熱発電」で、再生可能エネルギーの一つとして大きな注目を集めています。
地熱発電は、発電に使った熱水を農業などで再利用可能なことも特徴。
全体から見ると総発電電力量はまだ少ないですが、安定した発電ができる純国産のエネルギーとして、またエコな観点からも期待が高まっています。
この記事では、今注目されている地熱発電の仕組みや特徴、メリット・デメリット、日本の地熱発電についてわかりやすく解説していきます。
地熱発電とは
日本の地下に豊富なエネルギーがあることはわかりましたが、ではこの地熱エネルギーを使ってどのように発電しているのでしょうか?
ここでは、地熱発電のしくみや歴史について解説していきます。
地熱発電のしくみ
地球は、中心から核・マントル・地殻の3層構造になっています。
核の温度は5,000℃以上にもなり、この熱で溶けたマントルの岩石が高温の「マグマ」となって地表まで上がってくると噴火が起こり、火山ができます。
火山の下の浅い部分には「マグマ溜まり」があり、高温で周囲の岩石や水を熱して蒸気や熱水を発生させています。
温泉地で噴出している蒸気を見たことがある人も多いでしょう。その蒸気も地熱エネルギーですが、地熱発電では、地下1,500メートルから3,000メートルほどの深い場所にある150℃を超える高温高圧の蒸気や熱水が利用されています。
マグマの熱で高温高圧になった蒸気や熱水が溜まっている「地熱貯留層」まで井戸(生産井)を掘り、そこから蒸気・熱水を取り出します。その時の力を利用してタービンを回し、発電させるのが地熱発電のしくみです。
発電に利用後の熱水は、違う井戸(還元井)から地熱貯留層に戻しますが、一部を農業ハウスに供給するなどの活用も行われています。
現在、新エネルギーとして定義されている地熱発電は「バイナリー方式」に限られています。バイナリー方式とは、蒸気や熱水の温度が低く、発電する十分なエネルギーが得られない時などに使われる方法です。
取り出した熱水で沸点の低いさまざまな媒体を加熱し、その媒体からの蒸気でタービンを回して発電させるしくみになります。
地熱発電の歴史
日本の地熱発電の歴史は意外に古く、1919年に海軍中将だった山内氏が、大分県別府市で噴気孔掘削に成功したことから始まります。
その後、事業を引き継いだ東京電燈(株)が1925年に日本最初の地熱発電に成功したものの、終戦後まで大きな発展はありませんでした。
電力の安定供給が大きな課題となった戦後の日本。水力や火力の発電所建設を進めつつ、地熱発電の調査研究にも注力した結果、1966年に日本最初の本格的地熱発電所として岩手県松川地熱発電所が運転を開始するに至りました。
さらに翌年には、大分県大岳発電所も操業を開始。これら2つの発電所の成功によって地熱発電の開発はさらに大きく進展していくことになります。
1970年代には、石油ショックがきっかけで策定された石油代替エネルギー政策、通称「サンシャイン計画」の後押しによって、地熱資源の開発は急速に拡大しました。
1985年には地熱発電開発費補助金制度が創設され、東北・九州地域を中心に次々と発電所が建設されました。
石油価格の安定や電力自由化などのエネルギー政策の転換によってしばらくは横ばい状態が続きますが、東日本大震災以降には再び再生可能エネルギーの機運が高まります。
2015年には23年ぶりに大規模地熱開発が秋田県湯沢市でスタート。2019年、岩手県松尾八幡平地熱発電所、秋田県山葵沢地熱発電所が運転を開始しました。
地熱発電のメリット
では、地熱発電のメリットにはどのようなものがあるでしょうか。主に3つのメリットがあるのでそれぞれ説明します。
持続可能な再生エネルギーで安心
地熱発電は地下にある地熱エネルギーを活用するため、石油や石炭のように枯渇する心配がありません。計画的に使用すれば永続的な発電が可能です。
また、自然が生み出す蒸気や熱水を利用しての発電なので、二酸化炭素の排出量は火力発電や風力発電などに比べても少ない結果となっています。
長期間に渡って供給可能なのはもちろん、利用された熱水を地下深くに戻すことで循環再生利用ができるクリーンエネルギーだといえるでしょう。
蒸気・熱水が再利用できる
発電に使った高温の蒸気や熱水は、河川水と熱交換することで農業ハウスや魚の養殖、地域の暖房などに再利用可能です。
特に寒い地方や時期に重宝されており、たとえば北海道の森町では、発電後の熱水の一部を利用して近隣の農業ハウスに温かい水が供給されています。
冬の厳しい寒さの中でも安定した農作が可能となり、一年を通してトマトやきゅうりなどの野菜が栽培できるようになりました。
昼夜を問わない安定した発電
風力発電や太陽光発電といった他の自然エネルギーによる発電方法では、発電の時間が限られてしまったり、天候や季節によって発電量が上下したりといったデメリットがあります。
一方、地熱発電は、1,000~3,000mもの地下に掘削した深い井戸から昼夜を問わず天然の蒸気を噴出させており、それによって発電も連続して行われ、つねに一定量の発電が可能です。
また、優れた安定性だけでなく、設備の高い利用率によるコスパの良さも特徴となっています。
地熱発電のデメリット
地熱発電にはメリットだけでなくデメリットも存在します。主な2つのデメリットを紹介します。
開発・建設には地元との調整が必要
地熱発電所は特質上、公園や温泉などの施設が点在する地域と重なることが多いため、地熱発電を開発したり発電所を建設したりする場合は、地元関係者との調整が不可欠です。
近隣地域への地熱利用の温水提供をメリットとして提示し、また、その開発計画を織り込む必要も出てくるでしょう。地熱開発・建設では、地域の方々との共生を図りながら開発を進めていくことが重要となります。
地熱開発には時間がかかる
地熱発電は、高温高圧の蒸気・熱水を地下深くの「地熱貯留層」から取り出して発電に利用するため、最初に地熱貯留層を探し当てなければなりません。
地表調査と掘削調査に約5年、噴気試験などの探査事業に約2年がかかり、この段階で事業化判断が下されます。
判断が下されたら、環境アセスメントに約4年、発電設備の設置などの開発事業で約3年かかり、その後やっと開設に至ります。合計約14年もの長い年月が必要となることで、投資した資金の回収に時間がかかるといったデメリットもあります。
また、地熱貯留層を探し当てるには高度な技術が求められる点や、地下深くにある資源のため、蒸気や熱水を確実に得られるとは限らない、といった点も課題だといえるでしょう。
日本の地熱発電の課題とこれから
日本の地熱発電の場所は、主に東北地方・九州地方に集中しています。
日本の地熱資源量は世界第3位を誇っていますが、まだまだ課題も多く、目標を立ててコツコツと発電量を確保していく必要があります。
ここでは、日本の地熱発電の課題とこれからについて解説していきます。
日本の地熱発電の課題
日本は、世界第3位(2,347万kW)の地熱資源量を誇りますが、現在の発電設備容量は53万kW(2016年度時点)にとどまっており、日本における電力需要の約0.3%しか発電量がないことが課題となっています。。
まさに宝の持ち腐れ状態だと言えますが、東日本大震災以来、国は再生可能エネルギーに重点を置き始め、特に地熱発電の開発・建設を積極的に推進しています。
日本の地熱発電のこれから
経済産業省では、2030年度までに、地熱発電の設備容量を現在の約3倍である140~155万kWにすることを目標に、各種支援策などのさまざまな取り組みを行っています。
日本独自のエネルギー源として開発していくことはもちろん、地域振興を深めていく意味でも、より一層の地熱発電地の開拓や建設、発電技術を進めていく必要があるでしょう。
おわりに
地熱発電とは、地下深くにある蒸気や熱水を利用した、環境に優しいクリーンなエネルギーのことです。石油や石炭のように枯渇する心配がない永久的なエネルギーで、熱水を再利用して地域振興にも役立っています。
地熱発電はまだマイナーなエネルギーだと言えますが、日本には数多くの地熱資源が眠っているため、今後より一層の開発や建設に期待したいものです。